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「ツナミ」で米本土を攻撃。『シミタール SL-2』 [小説・本]

 *小説のあらすじに触れてますので、未読の方は注意して下さい。

 本のレビューの方は久しぶりです。本を読んでないことはなかったんですけど、軍事サスペンスの新刊文庫本があまり出てなくて、久しぶりに読んだのがこれ。この作品は前に書いた『原潜バラクーダ奇襲』の続編にあたる作品のようです。

 前回、チタン製の船殻を持つシエラ級改「バラクーダ」とロシア製巡航ミサイル「グラニート」を使ってアメリカ本土の発電所やらのライフラインを破壊した英特殊部隊SAS出身のハマス司令官ラーヴィー・ラシュードが2隻目の「バラクーダ2」とグラニートを使って大暴れするんですが、今回の作品はストーリー的にはちょっと肩透かしでした。作品の「シミタール」は核弾頭搭載型のグラニートミサイルの劇中の作戦名です。

  シミタール.jpg 『シミタール SL-2』(角川文庫) 挿絵はめっちゃかっこいいですね。

 お話は…ラシュードはロシアから中国を介して買ったバラクーダ2と、北朝鮮から買った通常弾頭と核弾頭のグラニート巡航ミサイルを使い、カナリア諸島の活火山を核弾頭で攻撃、大規模な津波による米本土攻撃を計画。津波攻撃の前にアメリカ政府に通常弾頭攻撃による火山噴火テロを実行、実力を見せ付けた上で、津波攻撃を止める条件として中東の駐留米軍の完全撤退とパレスチナ国家のイスラエル承認を求める。
 一方、アメリカ側は軍事作戦に消極的な民主党大統領をNSA長官らが超法規的行動で降板させ、軍事作戦に理解のある副大統領を昇格させる。前例のない大規模な市民の避難計画を進め、巡航ミサイルに不可欠なGPS衛星の作動を停止させ、バラクーダ2を近海までおびき寄せる…てな感じです。

 今回もチタン船殻を持つ高性能原潜を第2の主人公にしているのに、手に汗握る水中戦とかはなし。その代わり、核弾頭を使った「メガツナミ」攻撃に備えて、米主要都市から市民や政府機関を避難させたり、軍幹部が民主党大統領をこき下ろしたり、無理やり辞めさせたりとかの冗長なくだりが続きます。
 GPSを切られて遠距離からの巡航ミサイル発射を封じられたバラクーダ2がカナリア諸島の近海まで接近せざるを得なくなり、接近してマニュアル照準でミサイルを発射するものの、あっけなく対潜ヘリに捕らえられるし、結末は結構あっさりしてます。

 前作では沈着冷静で無為な殺人を犯さなかった元SASのハマス司令官はターゲットの火山を視察している最中に引退した元NSA長官に写真を撮られるし、拉致したイギリスの火山学者を特殊部隊独特の殺人術で殺して分かりやすい証拠を残すし、準備万端で米国のフリゲート艦や対潜ヘリが待ち構える海域へ何百億というカネを払って(北朝鮮は2基の核弾頭を含むロシア製のコピーの巡航ミサイル一式を500億円で売る)手に入れた潜水艦と弾頭を送り込むしで、何だか荒っぽい話になってました。

 また、全体にNSA率いる軍が暴走しがちで、大統領は強引にクビにしちゃうし、ヨーロッパ運営のGPS衛星の動作停止に同意しなかったフランスを「衛星を撃墜するぞ」と脅かすし、超法規的に戒厳令を敷いてマスコミも管理下に置いちゃうし、実際にこんなことがあったら、もはや民主国家じゃなくなっちゃう。それでも最後はにっくきアラブ人テロリストからアメリカを守ったヒーローを称えてめでたしめでたしになってて、ちょっと辟易としてしまいます。

 途中で勝手に別のあらすじを考えてみたんですが、もし私が作者なら、核弾頭で火山を撃ち抜き、津波を使った攻撃をやるぞと見せかけて米海軍主力を陽動し、主要都市から一般市民を避難させた上で、手薄になった別の沿岸から主要都市のインフラを破壊するというお話にするかな。いたずらに人命を奪うことなくアメリカの政治・経済の中枢を叩き、国力を弱らせるのです。ドル安を誘って為替相場でインサイダー取引をやるという筋立てでもシブいかな。

 米国海軍が待ち受けている場所に高性能原潜で攻め込むんだから、潜水艦や水上艦との派手な戦闘シーンをもうちょっと読みたかったかなあ。

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すみませんすみません…。 [小説・本]

 え~まだ全部読んでないんですけど…。自分のこと棚に上げて笑ってしまいました。後に書く「13の使徒」に該当する女性の方がいても怒らないで下さい。すみませんすみません…。

 ざっと半分斜め読みしてみましたが、結構笑った。新聞の書評で取り上げられてて、おもしろそうだったので買ってしまいました。

  結婚難民.jpg 『結婚難民』 佐藤留美 小学館新書 …ちょっとレジに持って行くのに勇気がいりました…。

 簡単に言うと、これまでボロクソに責められることが多かった情けない男どもにちょっと理解を示し、女性(? なんだろうなあ…?)の目から女性をキビしく分析した本です。確かに、こんだけ結婚できない人が増えてる状況には、男のだらしなさもあるかもしれないけど、責められるべきは男ばっかりじゃないですよね。たぶん…。
 本書に出てくる「結婚してはいけない13の女」(エヴァンゲリオンの使徒みたいだ…)とは「ルブタン女」「絶食女」「超エコ女」「スピリチュアル女」「クーガー女」(笑い)…以下諸々。ちょっと誇張されてるきらいがありますが、「あ〜いるなぁ〜。こんな人」ってタイプが身近に結構いるのでは?

 ちなみに巻末に書いてありましたが、結婚できない男のことを「毒男」って言うんだそうです。私は猛毒男?です(いや、別に危険性はありませんが)…。あっ、全部読んでないのにナンですが、後半はちょっと救いのある内容のようです。お互いに先入観を取り払えば、良い出会いがあるのではないか? ということかな? 「13の女」の下りがあんまりおかしかったんで、まだ通読してないんですが取り上げてみました。




というわけで「13」の正体は(ネタバレあり)…。


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米独の駆逐艦と潜水艦の戦い。『U307を雷撃せよ』 [小説・本]

 *小説のあらすじに触れていますので、未読の方は注意して下さい。

 NHKのニュース(クローズアップ現代だったかな?)見てたら、現代人はベストセラーランキングを元に本を買う傾向が強いとか。だから、時間をかけて売る良い作品が売れにくくなっているそうです。そんなご時世で、ワンパターンのあらすじが多いにもかかわらず、浮気をしないで買い続ける軍事サスペンス小説の固定ファンが少数ながらいるわけです。
 私は本格的なミリさんではありませんが(ちょいミリオヤジなので)、ベストセラーランキングと言った他人の評価に左右されず、頑としてワンパターンのあらすじにはまる。これぞ漢の小説の楽しみ方ではありませんか。……とか何とか適当なことを書きつつ。

 お話は…。ドイツで環境保護派の政党が政権を握り、国内の全原発の操業停止を決定。深刻なエネルギー危機を迎えたドイツはテロ支援国家として国連から武器禁輸措置を受けている中東の架空の国「シラジ」へ最新型の武器を販売、見返りに石油を入手する取引に踏み切る。
 目玉は米最新型原潜に匹敵する性能を持つ212B型ディーゼル潜水艦。燃料電池を搭載し、従来のディーゼル艦より長時間もぐっていられる。そんな中、アメリカの英国大使館に生物兵器を使ったシラジのバイオテロが実行される。シラジへの武器密輸を警戒していた英駆逐艦と、潜水艦を護衛していたドイツ軍のユーロファイター・タイフーンが偶発的に交戦する事件も発生する。
 ドイツは212Bを4隻、シラジまで運ぼうとしますが、武器禁輸措置を守ろうとする米海軍駆逐艦も阻止活動に加わる。しかし、高性能な212B型Uボートは駆逐艦を撃沈、逃走する。
 一方、英国の情報機関の調査でシラジのバイオテロをドイツは事前に知っていたことが分かった。激高し、ドイツとの全面開戦を主張する英国に対し、アメリカは同隻数の駆逐艦をもって212Bをすべて撃沈してドイツの国際的信用を貶め、ドイツ首相を退陣に追い込むことで英国に開戦を思いとどまらせようとする。4隻のUボート対4隻の駆逐艦の死力を尽くした戦いが世界全面戦争を止めるカギとなる…てな感じです。

 U307上.jpg U307下.jpg 『U307を雷撃せよ』 ジェフ・エドワーズ著 上・下 (文春文庫)

 「チャフのポッドが花を咲かせるのを待たずに、ディロンは無線で呼び掛けた。『潜水艦搭載型艦対空ミサイル! Sub-SAMです! こちらウルフハウンド87。繰り返します。潜水艦の発射した艦対空ミサイルがこちらに向かっています、どうぞ!』」(上巻p264)

 ドイツ製212B潜水艦、対潜哨戒ヘリが飛んでくると水中発射の対空ミサイルで落としちゃうし、静粛性、水中速力を生かして最新鋭の米駆逐艦と互角に渡り合います。ちょこっとだけですが、ユーロファイター・タイフーンがコルモラン対艦ミサイルでイギリスの駆逐艦と戦う場面があり、なかなかかっこいいです。ユーロファイターはスタイルはいまいちですが、性能は凄いらしいので、もっと小説に出てきてほしいですね。

 著者は米海軍の元駆逐艦乗りの人らしくて、対潜戦闘の描写は詳しい。一方で、潜水艦の操艦術などの描写は少なく、潜水艦そのものにはあまり詳しくないのかなという印象。前半で中国が弾道ミサイルの発射テストをやって選挙を控えた台湾を威嚇する場面があって、作品の最後は大統領が緊急電話で叩き起こされ、「どこだ?」「中国です」というやり取りで終わっています。と言うことは、対中国をテーマにした続編があるってことですね

 
強硬な環境保護派が政権を取ったからといって、国連決議に違反してまで石油を手に入れるようなことを国として実行に移すかなというのと、駆逐艦や潜水艦を互いに何隻も沈められて、首相の退任ぐらいで手打ちできるのか、とか所々変なところはあるような気はしますし、元軍人が書いた本(この本を書いてる時はまだ現役だったらしい)らしく、国際政治とか情報機関の動きなどを絡めた立体的なストーリー運びは少なくて、戦闘シミュレーションみたいな描写が目立ちますけど、まあまあおもしろかった。


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戻ってきた本。 [小説・本]

 宅急便で知人の家から戻ってきた荷物の中に長らく貸しっぱなしになっていた本があった。すっかり忘れていたけど、良い本だった。前に『真実のマレーネ・ディートリッヒ』という映画を紹介したことがありましたが、ディートリッヒと同じで、大きな時代の波にもまれながら、自分が正しいと思う生き方を貫いた強く美しい女性の物語です

チャスラフスカ.jpg 『最も美しく ベラ・チャスラフスカ』(後藤正治著)文藝春秋

 新聞の書評欄でも結構取り上げられていたので、それなりに売れたのではないかと思うんだけど、ベストセラーの欄では見なかったかなあ。ジャンルは著者からも分かるかもしれないけど、いわゆるスポーツノンフィクション。

 読み返していないので、内容はちょっとうろ覚えですが、チェコの女子体操選手、ベラ・チャスラフスカが旧ソ連のチェコ侵攻、いわゆるプラハの春に有名スポーツ選手として抗議の署名に名を連ね、そのために民主革命失敗後のチェコで政府から冷遇される。署名を撤回すれば復権させると持ちかけられるのに、毅然として断り続けるのです。
 東京オリンピックで金メダルを取ったにもかかわらず、チャスラフスカはメキシコオリンピックへの出場が危ぶまれる。やっとのことで出場したチェコ女子体操チームのコスチュームは黒。暴力で民主化を踏みにじったソ連への抗議の意思表示だったそうです。

 チャスラフスカはソ連崩壊後のチェコで復権するんだけど、最後は家族に起きた不幸な事件を契機に精神を病んでしまい、人里離れた町でひっそりと暮らすことになります。著者の書面インタビューで、どうしてプラハの春の時の抗議の署名を撤回しなかったのか、という問いに対し、チャスラフスカは「節義のために。それが正しいとする気持ちはその後も変わらなかったから」と答えるのです。「節義のために」。人の心の芯を揺さぶる言葉ではありませんか。

 そんなベラ・チャスラフスカの凛とした生き様を旧ソ連や当時の日本のライバル体操選手や、現代の選手達の証言を通じて浮かび上がらせていく。メキシコオリンピックで祖国の希望を一身に背負ったチャスラフスカと闘ったソ連の妖精ナタリア・クチンスカヤらライバル達の思いやりあふれる証言も読ませるものでした。最初に読んだ時は本なのにちょっと涙腺が危うかったです。


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無人機vsミグ29改 『幻影のエアフォース』 [小説・本]

 *小説の内容に触れてますので、未読の方は注意して下さい。

 爆撃機を主役にすえた物語が得意なデイル・ブラウンですが、B-52を改造した架空のハイテク爆撃機EB-52が対空ミサイルで戦闘機はばしばし撃墜しちゃうし、地対空ミサイルはひょいひょいかわしちゃうし、敵はアラブか北朝鮮か中国…という分かりやすいお話が多かったんですけど、今作はちょっと近未来系で、ベタな勧善懲悪でもなく、まあまあ楽しめました。

 『幻影のエアフォース』(二見文庫)

 あらすじは…米軍の新型兵器の秘密実験基地ドリームランドでは、EB-52に搭載した遠隔操縦席で小さな無人機フライトホークを操り、対空戦闘や対地攻撃に使う次世代攻撃機の実用化に成功。その発展系として、人間の脳を直接に遠隔操縦の無人機のコンピューターに接続するANTARESシステムを実験していた。しかし、システムと脳の接続効率を上げるための薬物の副作用で精神に異常を来した陸軍出身の被験者が暴走、同僚機を撃墜した上に母機と無人機ごとブラジルの片田舎の空軍基地へ逃亡する。ブラジルでは軍事クーデターが勃発、覇権を狙う女性空軍大佐が偶然に飛来したANTARESシステムを使ってクーデターを成功させる…てな感じです。

 『MIG29-M/DEドリーム・フルクラム--。シャーキシキのあだ名の方がよく知られている-は、ボクサーのようなかまえを取っていた。二基のエンジンは翼と一体化した、コブラのようなカウリングの下にぶらさがっている。従来のMIG29はもともと制空戦闘機で、F16やF/A18ほどではないにしろ、敵機のパイロットの額に汗の玉を2,3粒浮かばせるほどの高い性能を持つ』(p69)
 『だからと言って、アーチャーことヴィンペルR-73空対空ミサイルの赤外線追尾装置を軽んじているのではない。むしろその反対だ-この抗高Gの多目的ミサイルは、もっとも改良の進んだサイドワインダーですらたちうちできない能力を持つ。しかし、ごく近い距離から発射しなくてはならないので、スミスに取れる戦法がひどく限られるのだ』(p80)

 『その返事を待たずにスロットルのボタンを押し、バーをアイドルまで動かした。むかしロシア軍の精鋭飛行隊がもちいた迅速に離陸する隠し技にのっとって、スタートパネルで右エンジンだけを選択する。電池を始動し、作動スイッチを押して、右エンジンに圧縮空気を送り込んだ。MIGはうなりをあげて目覚めた。回転が上がるのを一秒だけ待った。その一秒のあいだにキャノピーを引き下ろす。エンジンが安定するころには進み始めており、片側のエンジンだけで空へ突進した。ギアを収納してからようやく、左エンジンに空気を流し込み、ジャンプスタートさせた。MIGはぐんぐん上昇していく』(p556)
 ~くぅ~っ…かっこいい。エアショーとかのネット画像で、地上でロシア戦闘機の片側エンジンだけがスロットル開いてるのを見たことありますが、伝統芸だったのだろうか…。「シャーキシキ」って日本人の語感だと何だかヘンですが、確かにフルクラムはちょっとサメっぽい形をしています。ひょっとしたらロシアのサメってことで「シャークスキー」なのかもしれません。

 この作品でおもしろいのは、米空軍がMIG29フルクラムのエンジンを強化し、電子装備を近代化して、強力なアグレッサー(仮想敵機役)機に仕立てようとしているという想定です。デイル・ブラウンは米空軍の元軍人なんですけど、実はフルクラムが結構好きなんじゃないかというほど、改造フルクラムの飛びっぷりがかっこいいです。
 日本の航空自衛隊でもアグレッサー部隊はF15を(中国の?)スホーイ27みたいな色に塗って、最も腕のたつパイロットを配置しているそうです。訓練とはいえ強い敵役を作ることは重要なんですね。日本も買わないかなぁ…フランカーかフルクラム…。
 この小説ではフルクラムのアグレッサー計画は電脳無人機計画が成功しそうになって頓挫するんですけど、最後の良いところで再び登場して、米国の危機を救うのに活躍します。ミグはミリタリー系小説では常に「やられ役」なんですけど、この作品はロシア機を好きな人でも楽しめるかも。


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海自全面協力? 『無音潜航』 [小説・本]

 *小説のあらすじを紹介してるので未読の方は注意して下さい。

 日本の軍事サスペンスものは前にちらっと読んだ作品(あえて名を伏す)は美人の空自女性パイロットが何でか分かりませんが2000万円ぐらいするスーパーカーに乗ってるイーグルドライバーと次々に難事件を解決するというもので、リアリティがさっぱりだったんでちょっと足が遠のいていたんですが(以前にひょんなことからちょこっと話ができたファントムライダーはカローラに乗ってました…)。この作品はリアリティ満点でおもしろかったです。よく行く本屋には平積みになってたのでかなり売れてるのかな?

 『無音潜航』(池上司、角川文庫)

 ソノブイは一直線上に点々と、ほぼ200メートルの間隔で落とされている。現進路だと右から4番目と5番目の間を行くことになる。…確実に捕まるな…。藤井は思案した。恐らくこの状況で考えると、ソブレメンヌイ級が搭載する対潜哨戒ヘリKa28に違いない。(p170)

 お話は…。またしても北朝鮮が悪者ですね…埼玉県所沢市の東京航空交通管制部に北朝鮮の工作員が潜入、使用済み核燃料を使った爆弾(核爆弾でなく放射性物質をばらまく爆弾)による核テロを仕掛け、日本の空を飛ぶ民間機を大混乱に陥れる。核を使った本格テロに一気に緊張を高める米国、中国、韓国。合同演習のために中国を訪問中の海自のディーゼル潜水艦「さちしお」には緊急に帰還命令が下る。
 一方で、北朝鮮沿岸では沿岸を警備する哨戒艇が脱出工作員を乗せているという小型高速艇を上司の命令で撃沈。さちしおが偶然、核テロの真相のカギを握ると思われる高速艇の乗組員を漂流中に救助するが、北朝鮮の一部勢力と中国軍の思惑により、さちしおを中国領海から北朝鮮領海へ追い込んで沈めようとする秘密作戦が始まる。さちしおを追うのは中国原潜漢級。静粛性に勝る海自潜水艦と水中速力に勝る漢級原潜との間で互いの艦の性能と知力を尽くした心理戦が始まる…。てな感じです。

 潜水艦の艦内や操艦の描写が凄くリアルで、海自の実際の艦長さんに相当な取材をしたのだと思います。中国原潜との闘いも互いの手の内の読み合いと裏のかき合いで手に汗握る展開。魚雷を簡単に撃たないところとか、最後の最後まで敵の裏をかいて戦闘を回避しようとするところとか、実際に海自の潜水艦がこうした状況に巻き込まれたらこうなるだろうな、というお話になってます。日本の海上自衛隊の能力って米軍も認める凄さですから。

 ちょっと残念なのは、潜水艦同士の闘いの描き方がリアルすぎる分、テロが起きた背景とかそれに暗躍した軍部や国際政治の駆け引きなど、物語のスケールを広げるための大きなドラマ部分が薄い気がしました。よくできた戦闘シミュレーションを見てるみたいな感じなのです。
 でも、この作品、映画化できそうな気がするなあ…。


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架空のステルス原潜vsロサンゼルス級 『原潜アメリカ強奪』 [小説・本]

 *小説の内容に触れてますので、未読の方は注意して下さい。

 本の方はチョー久し振りの更新です。作者のスティーブン・クーンツはフィデル・カストロ死後(ご本人はまだお元気ですが)のキューバの混乱を描いた『キューバ』とか、映画『イントルーダー 怒りの翼』(ウィレム・デフォーが出てるベトナム戦争もの)の原作の『デビル500応答せず』を書いた有名な軍事サスペンス作家です。

 『原潜〈アメリカ〉強奪(上・下)』(扶桑社)

 「もうちょっと音を拾わないと。やつが接近していることだけは確かだけど」。3分後、エックは言った。「コンピューターによれば、ロスアンジェルス級ですね」(下巻p14)

 お話は…弾道ミサイルを無効化する米欧露共同開発のスーパーイージス衛星の打ち上げが何者かの破壊工作で失敗。ハイテクの粋を集めた衛星は大西洋に落下、行方不明になる。一方で、海中、海上のすべての音響反射を3次元画像に再構成する最新型ソナーを備え、最新型の魚雷ジャミング装置を備えた原潜「アメリカ」が進水式の最中に何者かに強奪される。原潜アメリカは米海軍の総力を挙げた追撃を振り切り、新型弾頭を搭載した巡航ミサイルでワシントン、ニューヨークなどの主要都市を次々に攻撃する。
 巡航ミサイルに搭載されていたのは強力な電磁パルスによるEMP効果で電子回路を広範囲に不能にする特殊弾頭で、管制を失った航空機が墜落、都市機能がマヒするなど甚大な被害を発生させる。一方、原潜アメリカを強奪したのはCIAが旧ソ連の原潜を強奪するために旧ソ連の元原潜艦長を訓練した秘密チームだったことが判明。CIAは海中を超高速で進む旧ソ連のシュクバル水中ロケットの技術を盗むために秘密チームを養成していたが、SVRの妨害で断念。その元艦長を何者かが強奪チームに仕立て上げた。甚大な被害で米ドルは暴落、為替市場でのインサイダー取引によるマネーゲームで莫大な利益を上げた投資家が黒幕として浮上するが、原潜を奪った目的と真の黒幕は別のところにあった…。

 『キューバ』も結構おもしろかったけど、これも構成が複雑で、最後の方まで原潜強奪チームの狙いがなかなか分かりません。迫真の戦闘シーンは米海軍のロサンゼルス級原潜と原潜アメリカの対決。ロサンゼルス級は最新型のシーウルフ級の一世代前の潜水艦ですが、最新型の原潜アメリカに闘いを挑みます。あり合わせの乗員で構成する強奪チームを率いる旧ソ連原潜艦長はハイテクには弱くても操艦術は一流で、互いに知力を尽くした厳しい戦闘になります。

 この作品ではロシアはアメリカの敵ではなく、主人公の知人として登場するSVR工作員は抜け目のない観察者のような立場です。東西冷戦が過去のものとなり、国際社会は巨額の利益を得ようとする企業や政府の力関係で動き、現実の諜報戦の舞台もそっちの方へ展開されていくのかもしれません。


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日本のミグが北朝鮮と闘う。『韓国軍北侵』 [小説・本]

 *小説の内容に触れてますので未読の方はご注意ください。

 

 『韓国軍北侵』(二見書房)デイル・ブラウン

 お話は…貧困にあえぐ北朝鮮から核爆弾を抱いた旧式機が韓国に進入。運良く核爆発は逃れるが、韓国は北朝鮮が現実に核兵器を持っていることに震撼する。やがて、韓国政府は高度なスパイ活動で北政府に浸透し、クーデターを成功させて朝鮮半島統一に成功する。キム・ジョンイルは中国へ亡命、亡命政府を樹立する。

 しかし、北の軍事基地には中国から供与された核弾頭、生物兵器、中距離弾道ミサイルなどが大量に保管されていた。米軍、中国軍を領土から撤退させ、核保有を背景に軍事的な独立も図ろうとする統一コリアに中国が警戒感を抱き、機甲師団を投入、一方、統一コリア政府内の強硬派が核兵器による中国との全面対決に踏み切るが…てな展開です。

 作者のデイル・ブラウンは爆撃機を主役にすえた物語が得意で、今回は一世代前のステルス爆撃機B-1の改造型が対地攻撃、空対空戦闘、弾道弾迎撃と大活躍。物質を消滅させるプラズマ弾頭というトンデモ兵器も出てきます。

 「『やつは…おれたちの左にいる、距離は…距離約1マイル』機長は言った。『ちっくしょう、日本の戦闘機だ! 尾部に赤い日の丸が見える! 日本のミグ29戦闘機だ! そうか、おれたちを追いかけていた北朝鮮のミグをこの連中がやっつけてくれたんだ』(下巻p98)

 同じ作者の別の物語で、独立を宣言した台湾を中国が核攻撃(!)し、それに対してアメリカが核で報復しなかったために、日本は安保政策でアメリカと距離を置き始め、ロシアの戦闘機を買い始めた…という時代設定になっています。う~む…日本の空自、ホントに買わないかな。ミグかスホーイ…とにかくかっこいい機体ですから。F15とかF22よっかずっと安いし…。

 デイル・ブラウンの一連の作品の中でずっと主役の最新鋭兵器開発部門「ドリームランド」の責任者マクラナハン准将が、州航空兵というあまりスポットの当たらないパイロットから弾道弾攻撃を任務とする改良型B-1チームを選抜して、ノドン、テポドン、スカッド、フロッグが飛び交う朝鮮半島で中国軍の戦闘機と闘いつつ、韓国軍の核ミサイルを打ち落としたりと縦横無尽の活躍が描かれます。訓練中の事故で同僚を失ったパイロットの苦悩やら恋愛やらが散りばめられていて、上下巻で長いし、ちょっと冗長な感もあります。

 「『やつら…待てよ。戦闘機のレーダーを捉えた…。Iバンド・フラッシュダンスレーダーだ…くそっ! ミグ31フォックスハウンドだ! 二機いる!』 ロシア製ミグ31フォックスハウンドは、低高度で飛行する超音速爆撃機と巡航ミサイルを撃墜するのを目的として設計された、世界最速の恐ろしい要撃機だった。『戦争は終わったみたいだ-なのに、戦闘機に知らせるのを、誰かが忘れたらしい!』」(下巻p304)

 空中戦のシーンは全体の分量から言うと短いですけど、元軍人の作者らしく、他の作品の例にもれず迫力あります。日本の空自はいつの間にか参戦して中国機落としちゃうし、既に集団的自衛権の問題は解決しちゃった後のようです。だけど、ホントに北朝鮮でクーデターが起きていきなり半島が韓国に統一されたら、たぶん中国は黙ってはいないでしょうね…。


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真実の凄さ。『SAS特殊任務』 [小説・本]

 *本の内容に触れてますので、未読の方は注意して下さい。

 この本、これまで取り上げてきたような、小説家が書いたフィクションではなくて、イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)に所属していた本物の軍人が自分の体験を書いたものです(CIAやMI6の検閲で多少内容が変更されているという話ですが)。SASというと、軍事サスペンスはもちろん、映画の世界でもよく出てきますよね。漫画の『マスターキートン』とか、映画だとメグ・ライアンが出ていた『プルーフ・オブ・ライフ』のラッセル・クロウが元SASという設定だったような。

 で、本ですけど、かな~りエグイ描写があって、凄い内容です。映画のような何でもできるスーパーマンでなく、任務として世界各国の紛争地に出掛けていき、そこで出会った人々や戦闘の様子を淡々と描いてます。もひとつ言えるのは、重火器が人間を殺傷するというのはこういうことなのだ、ということを実感させてくれること。

 特に、アフガン戦争で潜入した際の旧ソ連の戦闘ヘリ「Mi24ハインド」との闘いの描写は凄まじいです。前に「攻撃ヘリ ハインドを撃て」という小説を紹介しましたけど、あの小説に出てくる、ムジャヒディーンに携帯型地対空ミサイルの使い方を教えた主人公はこの著者がモデルなのかもしれません。

 小説ではSAS大尉がレッドアイ(スティンガーの旧型)を使ってハインドと対決しますけど、実話では(たぶん)CIAの依頼でいったん除隊した著者が最新型のスティンガーをアフガンゲリラのムジャヒディーンに供与するため、民間人を装ってアフガンに潜入、その使用法のコーチをします。スティンガーは旧ソ連軍の地上攻撃機や戦闘ヘリを次々に撃墜し、アフガン戦争のすう勢を変えたと言われています。その戦争での疲弊がソ連の解体へつながっていくんですね。しかし、やがてそのゲリラたちは今度はアメリカの敵になっていく(そこまではこの本では出てきませんが)。

『SAS特殊任務』(ギャズ・ハンター著 並木書房)

 昆虫みたいなユニークな外観だと書きましたが、その性能は「空飛ぶ重戦車」などと表現される戦闘ヘリ『ハインド』。凄まじい破壊力とその恐ろしさは例えばこんなん。

 「騒音が最初にやってきた…(中略)…まぶしい陽光の中で何かが光った。ハインドD攻撃ヘリだ。機首を下げ、高速で接近する機影が青空に茶色くぼんやりと浮かんでいる。…(中略)…ロケット弾が攻撃ヘリから次々に撃ち出され、一斉射ごとに長い白煙をひいている。迫撃砲が高々と宙に舞い、一瞬止まったかと思うと、再び地面に落下して、人体の断片とまじり合った。(中略)わたしは以前にハインドが村を攻撃する光景を目撃したときのことを思い出した。そのとき、ムジャヒディーンたちのひとりは私を振り返って、こういった。『ハインドは世界をかきまわして殺すんだ』その意味が私には今やっと理解できた-攻撃ヘリは大地を食らい、噛み砕き、人間も武器もいっしょくたに切り裂いて、吐き出すのだ」(冒頭-p7)

 超人的な戦闘能力を持つSAS隊員といえど、逃げるしか手はない。ハインドが去った後、勇敢に立ち向かったアフガンゲリラは人の破片としてそこらじゅうに散らばっており、生き残った著者は友情? が芽生えつつあった父親を失ったアフガン少年の体の一部を見つけて心のシャッターを閉ざします。月明かりの下、木の棒だけが立てられた墓地。戦場と戦闘に一生を捧げてきた軍人が書いてる本なんですが、戦争の無常さとか愚かさも十分に感じさせる内容です。

 お話は主人公が陸軍に入隊して、北アイルランド紛争とかアフガン潜入(一番章が長く読み応えあり。凄く残酷な描写あり)、コロンビアの麻薬紛争、アフリカ内戦と、世界各地で巻き込まれる戦闘についての体験が書かれていて、必ずしも派手な戦闘シーンばかりではないし、小説のようにかっこよく敵をやっつけて味方と握手を交わす場面もなく、まさに仕事、任務として淡々と向き合っているのですが、それがすごい緊迫感とリアリティを感じさせ、あっという間に読めました。単行本しかないみたいなので、本はごついしちょっと割高ですが、軍事サスペンスの好きな人なら一気に読めるし、読み応えのある本だと思いました。


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SR-71ブラックバードvsミグ3兄弟 [小説・本]

 *小説の内容に触れてますので、未読の方は注意して下さい。

『ロシア軍殺戮指令 上・下』 ジェイムズ・バリントン(二見文庫)

 一〇五三時、ポール・ジェイムズ大尉はミコヤン・グレビッチ・ミグ-25、通称フォックスバットを確認した。「火器管制レーダー…フォックスファイアです。全ECM作動」…(中略)…「搭載火器は?」「おそらくAA-9とAA-10ミサイル。それに30ミリキャノン。ミサイルは撃ちっぱなしです」(上巻p42-43)

 つうことで、上巻、冒頭、ロシア上空をマッハ3で偵察飛行するSR-71ブラックバードをミグのフォックスバット、フォックスハウンド、フルクラムの3兄弟で迎え撃つ場面があり、結構迫力あるんですが、それ以降はもっぱら旧KGBのSVR工作員と、イギリスの秘密工作員との暗闘がメインのスパイ小説になります。空中戦やら兵器同士の闘いがメインのハイテク軍事サスペンスが好きな人には物足りないかも。

 簡単なあらすじは、ロシアの守旧派の軍幹部が暴走、クレムリンの目を盗んでひそかにアルカイダと手を組み、新型中性子爆弾を使ってアメリカをけん制しながら、ヨーロッパ全域の覇権を実現する秘密作戦を実行する。その作戦内容は「そりゃちょっと無理があるだろ」という荒唐無稽なものですが、それを無視して読めば、小さな手がかりからイギリス工作員が核やその起爆操作を行う人物を突き止め、イギリス軍特殊部隊と一緒に悪だくみを阻止するスリリングな展開。

 作者がイギリス人だからなのか、スペツナズ(ロシア軍特殊部隊)とSAS(イギリス軍特殊部隊)の戦闘では、圧倒的なSASの勝ちで終わってしまいます。そうかな~スペツナズも結構強いんじゃないかな。

 主人公にあたるイギリス工作員は悪い奴は情け容赦なく拷問も殺害もするし、超「勧善懲悪」なお話です。筆者は元イギリス軍パイロットで秘密作戦に従事した軍人らしく、作者名はペンネームだそうです。スパイ同士の闘いの描き方とか、冒頭の空中戦、アメリカ、ロシア、イギリス、ちょこっとだけ出てくるフランス各国の情報部門の描き方などなかなか迫力あります。

 ただ、その肝心の核兵器を使ったロシアの作戦が…。「そんなことできるのかな~」って内容で。スパイ物の好きな方はすいすい読めるかもしれません。


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