SSブログ

真実の凄さ。『SAS特殊任務』 [小説・本]

 *本の内容に触れてますので、未読の方は注意して下さい。

 この本、これまで取り上げてきたような、小説家が書いたフィクションではなくて、イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)に所属していた本物の軍人が自分の体験を書いたものです(CIAやMI6の検閲で多少内容が変更されているという話ですが)。SASというと、軍事サスペンスはもちろん、映画の世界でもよく出てきますよね。漫画の『マスターキートン』とか、映画だとメグ・ライアンが出ていた『プルーフ・オブ・ライフ』のラッセル・クロウが元SASという設定だったような。

 で、本ですけど、かな~りエグイ描写があって、凄い内容です。映画のような何でもできるスーパーマンでなく、任務として世界各国の紛争地に出掛けていき、そこで出会った人々や戦闘の様子を淡々と描いてます。もひとつ言えるのは、重火器が人間を殺傷するというのはこういうことなのだ、ということを実感させてくれること。

 特に、アフガン戦争で潜入した際の旧ソ連の戦闘ヘリ「Mi24ハインド」との闘いの描写は凄まじいです。前に「攻撃ヘリ ハインドを撃て」という小説を紹介しましたけど、あの小説に出てくる、ムジャヒディーンに携帯型地対空ミサイルの使い方を教えた主人公はこの著者がモデルなのかもしれません。

 小説ではSAS大尉がレッドアイ(スティンガーの旧型)を使ってハインドと対決しますけど、実話では(たぶん)CIAの依頼でいったん除隊した著者が最新型のスティンガーをアフガンゲリラのムジャヒディーンに供与するため、民間人を装ってアフガンに潜入、その使用法のコーチをします。スティンガーは旧ソ連軍の地上攻撃機や戦闘ヘリを次々に撃墜し、アフガン戦争のすう勢を変えたと言われています。その戦争での疲弊がソ連の解体へつながっていくんですね。しかし、やがてそのゲリラたちは今度はアメリカの敵になっていく(そこまではこの本では出てきませんが)。

『SAS特殊任務』(ギャズ・ハンター著 並木書房)

 昆虫みたいなユニークな外観だと書きましたが、その性能は「空飛ぶ重戦車」などと表現される戦闘ヘリ『ハインド』。凄まじい破壊力とその恐ろしさは例えばこんなん。

 「騒音が最初にやってきた…(中略)…まぶしい陽光の中で何かが光った。ハインドD攻撃ヘリだ。機首を下げ、高速で接近する機影が青空に茶色くぼんやりと浮かんでいる。…(中略)…ロケット弾が攻撃ヘリから次々に撃ち出され、一斉射ごとに長い白煙をひいている。迫撃砲が高々と宙に舞い、一瞬止まったかと思うと、再び地面に落下して、人体の断片とまじり合った。(中略)わたしは以前にハインドが村を攻撃する光景を目撃したときのことを思い出した。そのとき、ムジャヒディーンたちのひとりは私を振り返って、こういった。『ハインドは世界をかきまわして殺すんだ』その意味が私には今やっと理解できた-攻撃ヘリは大地を食らい、噛み砕き、人間も武器もいっしょくたに切り裂いて、吐き出すのだ」(冒頭-p7)

 超人的な戦闘能力を持つSAS隊員といえど、逃げるしか手はない。ハインドが去った後、勇敢に立ち向かったアフガンゲリラは人の破片としてそこらじゅうに散らばっており、生き残った著者は友情? が芽生えつつあった父親を失ったアフガン少年の体の一部を見つけて心のシャッターを閉ざします。月明かりの下、木の棒だけが立てられた墓地。戦場と戦闘に一生を捧げてきた軍人が書いてる本なんですが、戦争の無常さとか愚かさも十分に感じさせる内容です。

 お話は主人公が陸軍に入隊して、北アイルランド紛争とかアフガン潜入(一番章が長く読み応えあり。凄く残酷な描写あり)、コロンビアの麻薬紛争、アフリカ内戦と、世界各地で巻き込まれる戦闘についての体験が書かれていて、必ずしも派手な戦闘シーンばかりではないし、小説のようにかっこよく敵をやっつけて味方と握手を交わす場面もなく、まさに仕事、任務として淡々と向き合っているのですが、それがすごい緊迫感とリアリティを感じさせ、あっという間に読めました。単行本しかないみたいなので、本はごついしちょっと割高ですが、軍事サスペンスの好きな人なら一気に読めるし、読み応えのある本だと思いました。


nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 4

mana

こんばんは!
今『プルーフ・オブ・ライフ』が放送されています。
気づくのが遅く、頭の30分が切れてしまいました…く、悔しい…(ーー;

元軍人の方が実際に体験された事ですよね…
しまうまさんの記事を読んでいるだけで、生々しい情景が…
精神的に参っちゃうでしょうね…。
by mana (2006-12-28 01:23) 

しまうま

 manaさん

 こんばんは~。それそれ。メグ・ライアンがラッセル・クロウによろめいちゃって(死語かな?)、離婚のきっかけになっちゃった映画です。戦闘シーンの迫力はまあまあで、映画館で見ましたけど、まあまあ楽しめたかな?

 本の方はホントにマニアな人しか読まない本だと思います。なら取り上げるなって…^^;。実話は映画のようには行かないんだなと分かりました。
by しまうま (2006-12-28 19:44) 

あ、↑この映画私も見た。
なんか、実際にありそうな話だな~って思っちゃいました。

この本も偶然今日書店で見かけてなんだか恐ろしそうな本だなってチラ見したところでした・・。
by (2006-12-29 01:27) 

しまうま

 maintenantさん

 最後、ラッセル・クロウがかっこよく去っていくんですよね。でも、その時のバックの音楽が確かラッセル・クロウ本人の歌だったような。ちょっとやりすぎやろ〜と思いましたが。

 東京の生活は慣れましたか。いろいろ刺激があって楽しい所だけど、どこに行っても人が多いし、物は高いし、私は疲れる時もあったかなあ。
by しまうま (2006-12-29 13:25) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。