SSブログ

事実は小説より奇なり。フロスト×ニクソン [映画]

 *映画のあらすじに触れてますので、未見の方はご注意下さい。

 理不尽な異動で不愉快な気分を変えられないこんな時は…スカッとするアクションとか幸せな気持ちになるロマンチックコメディか…と思ってたのに何故かこれを…。

 新聞の映画評で高得点で、確か「言葉のボクシング」って評されてました。元は舞台劇なんだそうで、ニクソンの役を舞台と同じフランク・ランジェラって俳優が演じてます。

   フロストニクソン.jpg (写真はパンフレット)

 お話は…民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした男が逮捕されたウォーターゲート事件で失脚したリチャード・ニクソン大統領。コメディアン出身のイギリス人司会者デビッド・フロストはその会見中継が驚異的な視聴率をマークしたことを知り、根っからのテレビ屋として大統領へのインタビュー挑戦に心をかき立てられる。代理人を通じて高額の報酬と引き換えに単独インタビューを申し込むフロスト。一方、ニクソン側はニューヨークタイムズなどの辣腕政治記者ではなく、政治取材の経験の浅いフロストを相手に選んで意のままのインタビューを放送させ、政治家としてのダメージ回復を狙っていた…てな内容です。

 フロストは有能なジャーナリスト、政治研究者を仲間に入れ、事前調査でニクソンを追い込もうとします。しかし、老獪な政治家ニクソンは質問を巧みにかわし、得意な話題へ誘導したり、家族との感動的な話にすり替えたりして、全部で4回のインタビューのうち3回でフロストを圧倒。互いにボクシングのセコンド役みたいなアドバイザーがついていて、相手の(言葉の)パンチを一方的に受けてダウン寸前に追い込まれると休憩を入れたりして、息をつく間もない緊迫した場面が連続します。

 フロストはインタビューの報酬のために借金を重ね、資金繰りにも行き詰まる。レギュラー番組は打ち切りとなり、ニクソンの老獪な攻撃に攻め手も見出せず、いったんは勝ちをあきらめる。そんな時、フロストの宿泊先のホテルにニクソンから一本の電話が。「スポットライトを浴びるのはひとりだけだ。私は君にとってもっとも手ごわい敵になる」と語りかける。
 ニクソンは裕福な家の出ではなく、上流階級出身の仲間や政治家、役人からさげすまれ、それをバネにして闘ってきた。フロストもイギリスの名門大学に進みながら、コメディ番組の司会者として同じように上流階級出身の仲間やジャーナリストからさげすまれていた。
 ニクソンはフロストの身上調査書を読みながら語りかける。圧倒的に有利な立場にいながら、「俺は強いぞ。お前はこのままでは負けるぞ」と励ましているように見えた。似た境遇を生きてきて、やっとチャンスをつかもうとしているフロストに自分を投影したのだろうか。私はニクソンの人間味が出たいい場面だと思ったけど、パンフには単に「ニクソンの挑発」と書かれてました。
 完全に勝ちを諦めていたフロストはこのニクソンの電話で再び激しく闘志を燃やし始める。小さなヒントから調査を再開し、最終ラウンドの4回目のインタビューでついにニクソンをロープ際まで追い詰める。さて、ニクソンはウォーターゲート事件で犯した自身の過ちについて、テレビカメラの前で国民に謝罪の言葉を述べるのか…。

 ラストではつき物が落ちたように生気が失われ、巨大な力を持つ前大統領からただの孤独な老人になったニクソンの姿が映し出されます。狭い部屋でボクシングのように言葉をぶつけ合う最強の政治家から、深い孤独と後悔を背負った老人まで、顔そのものはニクソンに似てないんですが、フランク・ランジェラの演技でちゃんとニクソンに見えてくるから不思議です。

 映画の中では、ニクソンがダウン寸前、アドバイザー役の側近ジャック・ブレナンが止めに入りますが、パンフによると、事実はフロスト側が「このままじゃインタビュー映像が売り物にならない」とブレナンに泣きつき、インタビュー映像の売り上げの一部を受け取る契約になっていたニクソン側もカネが必要だったことから、ブレナンが「罪を認めるべきだ」とニクソンを説得したんだそうです。
 それを読むと、な~んだ、と思ってしまうのですが、民主主義の正義とかジャーナリズムとかの高尚な理屈ではなく、単にテレビ屋としての興味からニクソンという当時のアメリカ政治の最大の対象に狙いを定め、人生をかけて闘いを挑んでいくフロストの前向きな生き方を見て、ちょっと元気が出ました。

 ちなみにこれもパンフによると、ですが。この前、史上最悪の不支持率で辞めたブッシュさんは在任中に犯したさまざまな過ちについて、ぜ~~~んぜん後悔も反省もしてないし、微塵も罪の意識を感じておらず、最後のインタビューでもノーテンキな受け答えをしていたそうです。そう考えると、ニクソンって、やっぱいい人なんですよね。

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。