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娘が撮る父親。『ディア・ピョンヤン』 [映画]

 *映画の内容に触れていますので、未見の方は注意して下さい。

 

 気になっていたんですけど、知り合いが見に行って「良かった」と言ってたので見てきました。『ディア・ピョンヤン』。在日朝鮮人の女性監督梁英姫(ヤン・ヨンヒ)が、朝鮮総連幹部である「父親」と、北朝鮮と日本という2つの国の間に挟まれて生きてきた「家族としての父親」の姿を描いたドキュメンタリー作品です。

(写真はパンフレット)

 この作品、もっと重たい映画かと思ったら、劇場内は結構笑い声も起きたりして、すごくアットホームな映像があふれてます。それに、監督が持ち込んだハンディのビデオで撮影した映像がたくさんあって、平壌に住む3人の兄夫婦の生活とか、市民生活とかもテレビニュースで見る映像より生々しく描かれています。

 平壌のアパートは夜は停電で明かりがつかず、ロウソクをともして過ごします。街は真っ暗で、アパートはおんぼろ(それでも息子たちは比較的裕福な層らしい)。ビデオは北朝鮮出国時に検閲を受けるそうですが、普通の市民の暮らしがそのまま映ってる分、国の貧しさが伝わってきます。

 だけど、小さな子供たちはみな人懐っこく、おじいさんやおばあさんが大好き。ケータイもゲームもないから、部屋に閉じこもってる子供もいない。びっくりするのは、クラシック音楽好きの兄の子供がリストやラフマニノフの曲をピアノで弾くところ。遊ぶものがないから、子供は好きになったものには真剣に打ち込むのだそうです(パンフレットより)。北朝鮮だって、一般市民はごく普通の人たちなんだなあと感じます。

 監督は朝鮮総連幹部の娘として生まれ、3人の兄が帰国事業で子供の頃に北朝鮮に帰国していますが、基本的に独裁国家の現在の北朝鮮に批判的な視点を貫いています。自身、韓国籍に国籍を変えたり、ニューヨークに留学したりと、父親とは違う生き方を選択しています。作品中で父親に「3人の兄を帰国事業で帰したことを後悔しているか」と厳しい質問をしたりします。

 お父さんはそれでも、どこまでが本当の言葉なのか分からないけど、かの国の支配者への忠誠心(愛国心というか)を捨てないんですが、じゃあ、お父さんはどうにもいけ好かない人物かというと、これがそうではないんですね。一本気で頑固な、どこにでもいる一昔前のお父さん。孫のために一生懸命仕送りをし、お父さんの世話をする陽気なお母さんもいい。離れ離れになりながら、真面目に明るく生きてる家族が何だか悲しくて温かい。

 拉致問題や核実験やら、いろんなことで非難され、何やら恐ろしげな国というイメージの北朝鮮ですが、そこにいる人たちはごく普通の人たちで、家族の健康やら子供の成長やらのことを気にかけながら自分たちと同じように年老いていく。国に尽くしたことで勲章をたくさんもらい、平壌で親戚を集めて誕生日を祝ってもらう父親の晴れ姿が作品中で描かれていますけど、家族としての父親は故国の国家体制に嫌悪感を示す娘も受け入れることができるし、優しい妻が心の拠り所なわけです。そこは見ている側も癒されたような気分になります。


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怒れるOL 1号

しまうまさんのレビューを読んでぜひ見たい!思ったのですが、調べてみたら東京は朝イチ10時からしかやっていないみたいです。今日はもう昼だし、来週も予定があるので無理そう。祝日か最後の週末になんとかなるかなぁ~。
by 怒れるOL 1号 (2006-11-12 12:52) 

しまうま

 怒れるOLさん

 うひゃ~。何だかプレッシャーですね。基本的にカメラを構えた監督の目線で家族や平壌の風景をとらえ、質問に答えてる形なんで、ちょっと目にはホームビデオの延長のようなものです。内容が特異だというだけで。うまくはまらなかった場合はつまんないかもしれませんよ~。早起きして見に行かれてつまんなかったら申し訳ないです。
by しまうま (2006-11-13 00:54) 

しまうまさん ご無沙汰してます。コメントありがとうございました。
北朝鮮は近いようで遠いくにですね。しかし、そこで生きる人々は、日本人と変わらない人たちなんですね。
by (2006-11-14 00:54) 

しまうま

 hi-loweさん

 いえいえ。こちらこそ。この前、実家で自分の古い荷物を整理していたら、キャンディーズ(昔好きだった)の写真集とか高校の教科書が出てきてたまげました。アナログレコードもどっかに埋まってるはずなんですけど。出てきたらブログにアップしようかな。
by しまうま (2006-11-14 10:23) 

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