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何か惜しい。「オーケストラ!」 [映画]

 *映画の内容に触れてますので、未見の方は注意して下さい。

 
銀座のミニシアターでずっとやってて、しばらくしたら終わっちゃって、しまった~残念だなぁと思ってたら、再度上映になってました。各方面でかなり高評価だった「オーケストラ!」をお盆休みに見て来ました。

 お話は…ロシアのボリショイ劇場で清掃人として働くフィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)はかつて天才と呼ばれた指揮者。旧ソ連時代にブレジネフ政権を批判したユダヤ人バイオリニストをかばったため音楽界から追放された。ある日、支配人のデスクにファクスで届いた、パリのシャトレ座からの公演依頼を見てしまい、かつての仲間を呼び集めてボリショイ管弦楽団に成り済ましてパリに乗り込む計画を立てる。交渉役には元劇場支配人で、フランス語が堪能な元KGBの共産党員ガブリーロフに頼む。
 30年も公演から離れていたメンバーで、まともな演奏ができるかどうか分からない中、何故かフィリポフはゲストのソリストに世界的人気の美女バイオリニスト、アンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)を選び、アンヌ=マリーが共演しないなら、出演しないと強硬に交渉する。伝説的な指揮者からのオファーに意欲を見せるアンヌ=マリー。しかし、保護者兼マネジャーのギレーヌは頑なにフィリポフとの共演を断わろうとする。一方、寄せ集めのメンバーはパリに着くなり勝手な行動を始め、リハーサルにも姿を見せない。開演の時刻は近付く…。てな感じです。

 多少コメディ風味とか風刺を入れたかったのか、楽団員はロシア人らしく時間にはルーズだしいい加減だし、元KGBの男はいまだに少しピントがずれていて、共産党の復活を夢見ているしで、途中ドタバタした展開が続きます。ところが、ある事情をメールの一言で理解した楽団員は再び音楽家としての誇りを取り戻し、最初はバラバラだった演奏がソリストのアンヌ=マリーに導かれてどんどん蘇っていく。ここは感動のシーンですね。
 余談だけど、アンヌ=マリー役のメラニー・ロランって、すっごい美人女優。人気でそうです。これからハリウッドにも進出してきそう。


  オーケストラ.jpg (写真はパンフレット)

 いろんなレビューで書いてある通り、ラストの演奏シーンは素晴らしいです。ですが…そこに至るまでに、せっかく晴れの舞台での演奏の機会を得た楽団員がパリまで来て、せっせとアルバイト? してるのかがよく分からない。ロシアは今だって超格差社会なのかもしれないけど(エネルギー成金をおちょくった場面あります)、せっかくの晴れの舞台を台無しにして、不法就労でわずかなカネを稼いだって…。それともそういう今のロシアをおちょくってるのだろうか…。

 ユダヤ人の監督さんは旧ソ連のユダヤ人迫害を批判してるのに、楽団員の長老のユダヤ人はコンサート開始ギリギリまでバイトしている「金の亡者」みたいな描き方。共産党復活を夢見る元KGBの男とフランス共産党員はがらがらの聴衆を前に演説を続ける。共産党を過去の遺物として批判するのはともかく、あまりにステレオタイプな描かれ方。それと、ラストの演奏のシーンに重なって展開する「後日談」みたいなカットは必要ないんじゃないかなあ…。ハッピーエンドだから見てる方はすっきりするけど…。

 ここからホントにネタバレありです。




 中盤あたりで、アンヌ=マリーの出生の秘密が映画のテーマなんだなと分かってくるんですが、私は最初、実の父がフィリポフなのかなと思ってた。ところが、そこは脚本が巧くて、アンヌ=マリーの両親はブレジネフ政権批判をしたために強制収容所に送られたユダヤ人の楽団員だったことがラストで分かる。アルコール依存症になってたフィリポフは音楽を奪われた苦しみ以外にも、アンヌ=マリーの母親の天才バイオリニスト、レアを救えなかった罪の意識を背負ってきたんだってことも分かる。

 バイトに励んでいる一見やる気のない(?)楽団員は「レアのために戻れ」のメールの一言で再び結束力を取り戻すのです。そして、最初はバラバラな(そりゃ1回もリハーサルやってないし)演奏が、母親と生き写しのアンヌ=マリーの姿と天才的なバイオリンの演奏に導かれて、30年の時を超えて再び輝きを取り戻していく。ここは本当に感動的。アンヌ=マリーの美しい立ち姿に、音楽を奪われて収容所に入れられ、腕の中の存在しないバイオリンを夫の前で引き続ける母親の姿(メラニー・ロランの二役?)が重なる。

 凄くいい脚本だな~と思うんですが、だから、何だかドタバタした余計なシーンが惜しい気がするんですよね。元KGBの男は最後はフィリポフに協力するんだけど、フィリポフの音楽家としての人生を奪ったことに何も罪の意識を感じていない(ような描かれ方。パリに来たのもフランス共産党との交流が目的)。野に下っていた楽団員も、それぞれ「実は凄腕だよ」って雰囲気は見せるんだけど、ホントのラストのラストまで、だらしなくてわがままで、本当に音楽に人生を捧げてきたの? って見えてしまう。

 昔、再上映で見て、ラストでボロボロに泣かされた「グッバイ! レーニン」に似てる部分を感じたんですが、「オーケストラ!」は風刺とか笑いの部分がうまく感動する場面につながっていないような気がする。

 …とは言いつつ、久しぶりにいい映画を見たな、という気分になりました。

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ひょう

最後の一文に「見てみたーい」と思いましたが、
大阪ではシネコンプレックス枚方のみ(ちょっと遠い)、京都は上映なし。
うーん、関西はまだまだ遅れていますわ…。

メラニー・ロラン、確かに女性からみても美しさにうっとりです。
Yahoo!映画には、
「若い頃のカトリーヌ・ドヌーブに似ている」
というコメントもありました。

by ひょう (2010-08-16 11:37) 

しまうま

 ひょうさん

 何と言うか、キリっとした雰囲気の美人なんですよね。バイオリンの演奏シーンは手元もきっちり映ってましたけど、本職の方が見たらどう見えるか分かりませんが、きれいに指の動きも一致してましたね。相当練習したんだと思います。
 映画は全体としては良かったんだけど、中盤がちょっとお腹にもたれる感じがします。フィリポフ役のロシア人の俳優さんの演技力が当たり前なんですけど、なかなかです。ソ連時代からの有名な俳優さんなんだそうです。
by しまうま (2010-08-16 13:11) 

キキ

こんにちは。
パンフ買われたんですね。^・^

この映画、ロシア映画じゃなくてフランス映画なんですよね。
だからドタバタしてるのかな、とか 
おいおい、そりゃ犯罪じゃないですか?とか思うシーン多数なのかなと。
ラストの演奏シーンが素晴らしくて何でも許せそうになります。
それになんといってもメラニー・ロラン、美人ですよね。

by キキ (2010-08-21 01:06) 

しまうま

 キキさん nice!ありがとうございます。

 あ~なるほど…。フランス映画ですもんね。私としては、元KGBの男がフィリポフから音楽を奪ったことに罪の意識を感じていて、それを償うためにいろんな無理をする話だったらもうちょっと締まったんじゃないかなあとか思いました。
 だって、演奏の途中でタクトを折られる場面ってトラウマみたいに何度も出てくるのに、フィリポフが「あいつも上司に言われて仕方なくやったことだ」ってだけで許しているのはともかく、今も全然反省していないのに、家族ぐるみで付き合ってるような感じなのが何かしっくりしなかった。

 でも、ここら辺の心情的な背景は共産主義の崩壊とか、政治体制の変化で国がバラバラになったり、くっついたりを体で経験しているヨーロッパの人でないと分からないのかもしれませんね。
by しまうま (2010-08-21 12:14) 

ひょう

遅レスで失礼します。
このたび、WMC茨木で10月9日~22日の上映が決まったので
観に行ってきたのですが…
信じられないアクシデントが発生しまして。

つづきは、Myブログにて☆

by ひょう (2010-10-12 00:13) 

しまうま

 ひょうさん

 この映画、ネットのレビュー見て気がついたんですけど、チャイコフスキーの曲を演奏してるんですね。ひょうさんのアイドルのチャイコフ王子様は見たのかな。プロの目から見た感想もちょっと気になりますね。
by しまうま (2010-10-12 11:35) 

さんちゃん

でも、このドタバタがハリウッドじゃ一生出せない
フランス感満載たっぷりコンプレックスな映画だったかと。
by さんちゃん (2013-12-22 02:07) 

しまうま

 さんちゃんさん

 コメントありがとうございます。おっしゃる通りですね。ハリウッドだったら、ちょっとクサめの感動話になってたかもしれません。
by しまうま (2013-12-23 20:50) 

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