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映画 『戦場でワルツを』 [映画]

 *重要なネタバレ含みますので、未見の方は注意を。

 アカデミー外国語映画賞をあの『おくりびと』と争ったというイスラエルのアニメーション(というかドキュメンタリー映画という方が近い)『戦場でワルツを』見てきました。
 毎年のことですが、この映画をやってる映画館のある場所にはきれいな電飾のついたクリスマスツリーが。そんな華やいだ周囲の喧騒をよそに、久々に超ヘビー級の重い映画見てきました。これ、クリスマスのデートに彼女と一緒に見たら、クリスマス気分が消し飛びますので、ご注意下さい。

 ツリー.jpg (来年はよいことがありますように)

 映画のあらすじはアリ・フォルマン監督自身のイスラエルのレバノン侵攻従軍に伴う心の傷を再構成したものというか。冒頭、狂ったように路地を走る黒い不気味な犬が描かれます。路地を走り、ある男のアパートの前で群れながら吠え立てる黒い犬。狂ったような憎しみの目で男をにらみつける犬の姿は、レバノンの小さな村を襲撃する時に警報装置代わりに飼われていた犬を次々に撃ち殺した、男の罪の意識が描く悪夢だと分かります。
 小さなバーで酒を酌み交わすフォルマン監督と男が戦場の記憶について話をするんですが、不思議なことに監督には戦場での一部の記憶が抜け落ちている。そのことに気が付いた監督は次々に戦友を訪ね歩き、自分が見る不思議な夢の原因を探し始めます。夜空に輝く不気味な曳光弾。海岸に浮かんでいる男たちがやがてゆっくりと身を起こすと、軍服にそでを通し、自動小銃を手に取る。気が付くと、パレスチナ難民たちが何かを叫びながら自分の方へ押し寄せてくる…。たどり着いた悪夢の原因は…。

  戦場でワルツを.jpg (写真は映画館で売ってた映画専門紙『大阪映画サークル』。何だか懐かしい雰囲気なので買ってしまいました。公開作品のスケジュールとか載ってますよ。¥200)
  
 この映画、アニメ作品ではありますが、想像ですけど、インタビュー映像などは実際に人がしゃべってる映像を撮って、それをアニメーション化したんじゃないかという雰囲気です。戦闘シーンなんかもかなりリアルで、監督の記憶とか実際のニュースフィルムなんかを元に再構成しているんじゃないかなあ。
 ただ、それだけだとかなり退屈なものになると思うんですが、その合間にアニメでしかできないような幻想的なシーンが挟まります。印象的なのが、高層アパートと海岸線に挟まれた場所でゲリラ側の攻撃に完全に釘付けにされてしまった監督らの部隊が反撃に出る場面。部隊の中で一番戦闘慣れしている兵士が、機関銃を持って道路へ飛び出し、クラシックのBGMに合わせて、高層階から包囲しているゲリラ兵へ向かってワルツを舞うように機関銃を乱れ撃つ。そして、その激しい銃撃戦をアパートの高層階から普通の住民が見物しているのです。この頃のレバノンはまさに生活の一部に戦争があったわけですね。

 RPG7を抱えて戦闘車に挑んできた少年は一瞬で撃ち殺されるし、監督の悪夢の原因となったレバノン内戦で起きた村の虐殺シーンもアニメで再現されるのですが(それでもかなりエグいですが)、最後の最後、立ち尽くす監督に向かってレバノンの民衆が押し寄せてくるシーンで、虐殺の実写映像がいきなり出てきます。もろに遺体です。それも激しいリンチか銃撃でズタズタになってる人たちの。子どものものもあります。終わっても体が重たくなったような感覚に襲われて、すぐには立てませんでした。
 最初、映画を見る前はイスラエルがパレスチナ難民に働いた戦争犯罪行為を自分で断罪してる作品なのかと思ってたんですけど、後で公式サイトとか見ると、一般住民の虐殺をやったのはレバノンの反アラブのキリスト教主義政権側であり、イスラエルはそれを傍観した(か支援した)という罪のようです。だけど、今もアラブ世界と戦争を続けているイスラエルからこうした内省的な映画が出てきたことがきっと画期的だったんですね。だからアカデミー賞にもノミネートされたんでしょうね。

 『おくりびと』と比べても仕方ないですけど、作品としての衝撃度というか、インパクトはこちらの方がはるかにある感じがしました。実を言うと、『おくりびと』はテレビ放映で見たのですが、終わり方が何だか唐突な感じがして、そんなに優れた映画だという印象は持てなかった。じゃあ、この映画はというと、ラストで実際に遺体の実写映像を使ったのが少し失敗だったと思います。その印象が強烈過ぎて、それまでにアニメで描いた作品の大部分が一気に色あせる感じがするんですね。そこがちょっと惜しい感じがしました。


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キキ

こんばんは。
この映画、気になってはいたんですけど重そうな映画なんですね。

年末はなにかと忙しく、毎年みるこのツリーもそういえば観てないし
ドイツバザールも覗きたかったです。


by キキ (2009-12-22 01:41) 

しまうま

 キキさん nice!ありがとうございます。

 ラストの実写の部分は女性にはかなりキツイ映像だと思いますね。そこまではアニメ作品とはいえ、かなり淡々と進んでいきます。私は見終わった時、何だかぐったりしてしまいました。

 ドイツバザール、何故ドイツ? って思ってましたけど、あのビルにドイツ領事館が入ってるんですね。以前の記事で紹介したメリーゴーラウンドも盛況で、人出も多くて、すっかり大阪のクリスマスの名所になった感じですね。
by しまうま (2009-12-22 12:33) 

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