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言われてたほどではない? 映画『靖国 YASUKUNI』 [映画]

 *映画の内容に触れてますので、未見の方は注意して下さい。

 お盆なのになぜか仕事が忙しく、なかなか映画も足が向きませんでしたが、この季節はやはりこういう映画を見なければいけません。保守系の政治家が上映に横槍を入れたり、右翼団体の抗議活動があったりと何かと話題になった映画でしたが、いつか紹介した個性的なミニシアターで上映中だったので、ちょっと見てきました。

  靖国パンフ.jpg (映画館にあったチラシ。こっちはちょっと恐ろしげ? なイメージ。いかにも論争を呼びそう)

 上映はこの映画館の2階の屋根裏部屋? みたいな場所にある別館みたいなところで上映。終戦記念日の1週間ぐらい前だったと思いましたが、劇場内は観客は私入れて4人。世間を騒がせた頃はもっと入ってたのかな?

 映画は…小泉首相の参拝で揺れた(たぶん)60回目の終戦記念日の靖国神社での出来事を追いかけつつ、神社の御神体の靖国刀の刀匠が新しい刀を一本仕上げるまでの映像が挿入される。終わりの方は戦前と戦後間もなくの昭和天皇の参拝の映像に重ねて、太平洋戦争当時の日本軍兵士が(たぶん)中国人捕虜の首を日本刀ではねて手に持ってる写真などの記録映像…そんな感じです。

  靖国パンフ2.jpg (パンフレット。事前のいろんな問題勃発で? ちょっとソフトイメージに? 映画の内容に合ってない気がします)

 最初に思ったのは、右翼団体や保守系の政治家が怒るほど、批判的な視点は感じられない、ということ。ドキュメンタリーとしてはかなり簡単なつくりのように思えた。なぜなら、8月15日、その日に靖国神社で起きていることを淡々と撮影してるだけだから。ラストの記録映像は日本の戦争責任を批判してるものかもしれないが、どこかから既存の映像を引っ張ってきただけで、どこかで見たような気がするものばかり。

 ではあるけれど、その映像はかなりおもしろい。戦争に行ったぐらいの年齢の高齢者はまだ分かるにしても、明らかに戦争には行ってない(ひょっとすると戦後生まれぐらいの)年齢の男性らが完璧な軍装で行進しながら、大声でアジテーションする。星条旗を掲げたにやけたアメリカ人が靖国参拝をしようとする小泉首相を支持する、というプラカードを持っていると、握手を求める中年男性や、その一方で「ここで星条旗を掲げるな!」と怒鳴りながらアメリカ人の男にからむ男性も。
 石原都知事ら保守系政治家の演説を妨害する左翼系の若い男をいきなり引き倒して、「お前は中国人か!」とか「中国へ帰れ!」と怒鳴り続ける男…。鼻血を出しながら、警官に「僕を逮捕する気ですか!」と狂ったように叫び続けるその左翼系の男。制服姿で完璧な整列で行進してきて参拝する陸上自衛官…。合祀の取り下げを求めて集団でやってくる台湾人の戦没者遺族…とにかく「阿鼻叫喚」という言葉がぴったりな喧騒に包まれている。

 終盤の記録映像や台湾人遺族らの言動を別にすれば、映画は出来事をただ映してるだけ。もし、この映画を見て、靖国神社を貶めている、と感じるなら、それは映像の中に出てくる人があまりに珍妙に見えるからだろう。私もそう思う。どうして神社にお参りに来るのに軍装で来なければならないのか、よく分からないが、それは彼らなりの理屈があるんだろう。その思いに偽りがないのなら、この映画は思想の立ち位置に関係なく、今の靖国神社の姿をそのまま映しているだけの意味しかないように思える。
 だから、ドキュメンタリー映画として考えると、実は完成度は低いのではないか、とも思えてしまう。見ている者に考えさせることが目的なのか、政治的に問題になることを避けて明確なメッセージは打ち出さなかったのかもしれない。

 そんな喧騒をよそに、靖国刀の刀匠は長年の作業で節くれだった、まさに「職人の手」で黙々と刀を打ち続ける。旧日本軍の刀は軍人の象徴でもあるし、戦争で被害を受けた国の人々には残虐性の象徴みたいなもんだろう。だけど、焼き入れた鉄を叩きながら寡黙に淡々と刀を作り上げていく老いた刀匠の姿は、亡くなった兵士たちに祈りを捧げているようにも見える。

 戦争から生還したり、戦後をやっとこさ生き抜いてきた世代の高齢者を医療制度の変更や年金問題で苦しめている政治家が、終戦記念日になると何故集団で靖国神社に参拝したくなるのかはよく分からないけど、むしろ政治的なものとすっぱり手を切った方が、普通の人が静かにお参りできる場所として万人に認められると思うんですが、そうはならないんだろうなあ。


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